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1. 放電加工具の目的について
キリ(ドリル)穴加工、タップでのネジ立て工程において、 細心の注意をはらっているにも関わらず、ワーク(被加工物)に、 折れ込んでしまうトラブルが多々発生します。
従来、キリやタップが折れ込んでしまった時の解決方法は、 次のような方法でした。
(1)折れ込んだワークをスクラップにして新たに作り直す。
製造業では、多品種小ロット、短納期、高精度、低価格の時代です。 材料の予備も無く、一からの再加工は大きなロスです。
(2)熟練工による除去
これは熟練工でも至難の業です。さまざまな道具や手段で 数時間かけて除去できたとしても、ワークを傷めることが多く、 納期も遅れ、また除去できなかった場合は、時間と労力と材料、
果ては信用をも失うことになりかねません。
(3)一般の方殿加工機による除去
放電加工を利用し破損した硬いハイス材のタップ、キリ等の 中心部を、幾分小さい穴径で放電により溶かし、その後内側に 外す除去が有効な手段です。
しかし本来放電加工機は、金型などの高精度な加工機種が主体で、 高価な機械です。なかなか、この様な除去には使用できません。
いずれの場合も経済的負担が大きかったり、技術的、時間的問題を 新たに抱えることになります。
そこで、タップ・キリ折れの破損工具除去に特化した、低価格の
道具的な放電加工機、機種「放電加工具」の開発と供給が進め られてきました。
放電加工機のような専門の作業者でなくても、だれでもすぐに 使える簡単操作で、小型軽量で持ち運びができ、どこにでもある 100V電源、加工液は水道水、電極は市販の真ちゅう棒で、
加工が可能です。
加工ヘッド部と電源部から構成され、加工ヘッド部はマグネット スタンドに取り付けした可動式で、設置場所やワークの大きさにも 左右されない仕様です。
2.電源部の開発について
従来の放電加工機の基本的な構成は、低周波トランスと整流器を 用いた整流部と、放電断続エネルギー発生部があり、これより 電流制限抵抗を介して極間に供給する方式です。
当社の放電加工具も同じ構成で、重たい、大きい、電気を食う、 発熱する、電源の電圧変動に左右される等の問題がありました。
その後、カットコアトランスを使用したり、抵抗器の代用として ファン抵抗(ドライヤー)を使用してコンパクト化を図りました。
しかし、抵抗での電流制限により放電加工を行う場合には、加工が 進んでいる時(安定放電状態)の消費電力はともかく、加工が進まない 極間短絡時(ショート状態)で一番電力を浪費することは、依然として
問題でした。
図1は放電に必要な電圧と電流の関係を表にしたものです。
この、Vaとlaの直線は、従来の低周波トランスと抵抗で電流制限 を行ったもので、安定放電状態以後、加工の進まない極間短絡までが、 益々電力を浪費します。トランス、抵抗等の発熱もかなりあります。
次には、トランス内部の負荷で電流制限を行える、漏曳トランス (リーケージトランス)を採用し電流制限抵抗を不要にする事が 出来ました。 しかし、まだ電源電圧の変動があると一定能力の放電が
行えず、また、重たい、大きい、という「持ち運びできる放電加工具」と しては大きな欠点となる要素が残ります。
そこで、市販されている直流12V、24Vなどのスイッチング レギュレターのようなもので、低周波トランスに変わり放電加工具に使える ものは無いか、調査をしましたが存在しません。
既存の技術では高周波トランスを高電圧用電源と低電圧用電源、2つを 組み合わせたものなどがあり、かなり小型、軽量、高効率が図られている 内容ではありますが、電源回路が複数必要であるなど、さらなる小型軽量化
の妨げとなります。
従来技術を含め試行錯誤の結果、新たに電源を開発する以外になく、 高周波トランスによる放電専用スイッチング電源の開発に着手しました。
基本構成としては、小型高効率化・電流制限抵抗の削除を目的に、スイッチング 低電流源とし、スイッチング方式は電源電圧以上の放電加工電圧を発生させる
ために、フライバック型スイッチング方式を採用しました。
放電加工では、オープン電圧時には大電流を必要としないことに着目し、 高電圧域での電流制限を設け、かつ放電開始電圧以後からも、出力電流を 制限し電源容量の低減を実現しました。
一段と小型・軽量・高効率で 入力電圧の変動にも左右されません。
図1では、Va、Mがフィードバックされた特性で、M以下の放電開始電圧
以後からも出力電流に制限が働きます。

無負荷電圧180V、出力電流5Aの電源を製作する場合の 比較をすると、かっての低周波トランスと制限抵抗の仕組みでは、 各回路要素は700VA以上の対応が必要で、重さ10kg、体積は
10000立方cm程となり、開発した放電専用スイッチング電源では 各回路要素は300VA以内の対応で、重さ0.8kg、体積1000立方cmで
各回路要素は1/2以下、体積重さは1/10で製作できます。
前記内容により、放電専用スイッチング電源を放電加工具に搭載、実用化 する事ができました。
この放電専用スイッチング電源を使用して、極間へ供給する放電断続 エネルギーを発生させる要素としては、コンデンサ、コンデンサとコイル、 発振回路とトランジスタ、FET、サイリスタなどを接続して放電加工機用
電源側を構成することができます。
3. 放電加工具の仕様について
加工ヘッド部は、サーボ機構にはステンレス製精密送りネジと、 マイコン制御の小型DCモーターを使用し、また設定以上のトルクが 加わると検知するオーバーロード機能により、機構部の損傷を防ぎます。
Zストロークは100mmでマグネットスタンドを含めた重さは 5.5kgです。
電源部は、操作スイッチはメンブレンスイッチを採用し、放電専用 スイッチング電源とコンデンサとコイルによる構成で、大きさは 200mm X 250mm
X 220mm、重さは3.5kg、入力電源は 100V、300VAです。
加工液は水道水、電極は真ちゅう棒で使用可能です。
タップ除去可能な寸法範囲は、約M3〜M30で、例えば、M6深さ10mm の場合、約5分で除去できます。 小型ワークは水に浸して、大型ワークは
部分的に水を貯めたり、ホースで見ずをかけながらの加工が可能です。
加工液が水なので火災の心配が無く安全です。
4. 活用現況について
過去には年式の古い放電加工機を除去用途専用に設備したり、さらには 大型ワークに対応できるよう、改造したという事もあり、苦労されたようです。
破損工具の除去を目的とした放電加工で、放電加工具が一般の放電加工機と 異なる点としては、低価格であり、専門的な操作を必要とせず、小型で 場所を取らない、ワークの大小に左右されない、等となります。
例えば大型ワークであれば、放電加工機に持ってきて据えるのではなく、 放電加工具をワークに持っていって除去することが出来ます。
放電加工具の活用現場としては、一般の放電加工機を使用する金型加工現場
とは違い、切削経験は豊富ですが放電加工は初めてという所が大半です。
機械部品、工作機械、エンジン、建設機械、油圧部品などの生産加工工場で 使用頂いております。
私も幾度と無く苦い経験があります。 完成間近の最後の1個で折れます。 納期は連絡済で急ぎの時に折れ込み、まったく厄介なトラブルです。
10数年放電加工具の製造・販売に関わり、様々な生産現場に接し、加工に 携わる方々からは、放電加工具があると便利だ、みんな安心して作業が 出来るとか、破損トラブルが減り効率が良くなった、また、仕事の発注元
より「おたくは不良品が少ないね」と評価されたとのことです。
また、時代を感じる話では、「私が折ったんじゃない、機械が折ったんだ!」 との発言もあり、NC機械、マシニングセンター等の、益々自動化の時代
のようです。
何れにせよ、タップ・キリ折れ等の破損トラブルは限りなく少なく、また 無くす創意工夫が必要ですが、工作現場の精神衛生面からも、トラブルが 起きた時すぐに簡単に除去できる備えは必要です。
生産加工を伴う様々の企業、部署でご使用頂き、国内では3000社を超え、 海外では、1997年の香港工作機械展、ドイツのEOMショーで紹介できました。
当社の放電加工具のコンパクトなスペックが好評を頂き、アジア、ヨーロッパ 各国でご使用頂いております。
絶対に折れないタップやキリが、いずれは出現するかも知れませんが、 それまでは放電加工具があれば安心です。
今後もニーズに沿う、小型放電加工機の開発に努力してまいります。
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